花緒(鼻緒)が痛いという方へ―下駄コラム―丸屋履物店


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花緒(鼻緒)が痛いという方へ

このコラムでは花緒が痛いという方へ、花緒の作りをご紹介しつつ、足が痛くなりにくい花緒の選び方をご紹介していこうと思います。

まず。
和装履物の大きな悩みごととして「花緒の履物を履くとどうしても足が痛い!」という永遠のテーマがあります。
この花緒が痛い問題は1点を解決すれば良い、というわけではなく、何点かの要素が絡み合っている場合が多いです。

それは・・・

・履き方
・花緒の調節具合
・花緒そのものの硬さ・仕立て方

およそ、この3点が問題となっている場合が多いです。

花緒を足当たりの優しいものを選んで頂き、それを専門店でしっかりと花緒調節して頂く、それを正しく履く。
こうすることが出来れば、単に花緒が痛くてどうしようもない!ということにはならないと思います。

履き方に関しては和装履物Q&A下駄(雪駄・草履)の歩き方・履き方がわかりません」というページでご紹介していますので合わせてそちらもご覧ください。
花緒調節についてはお近くの下駄屋さんに相談して頂くとして、
ここでは、足当たりの優しい花緒の選び方を中心にご紹介していこうと思います。

慶応元年創業 和装履物処「丸屋履物店」 6代目店主 榎本英臣

もくじ

◆痛い花緒の典型例を知る

◆花緒の作り(仕立て方)で足当たりは変わる

◆花緒の裏地の種類

◆まとめ


痛い花緒の典型例

痛い花緒の典型例

まず初めにわかりやすく、こんな花緒が痛いよ・・・
という例を挙げてみようと思います。

ざっくりといきますと・・・
■細身の花緒
■革やエナメルの花緒
といった花緒が痛い花緒になります。

実は一番花緒のすげ替えや痛い!といった相談を受けるのは草履です。
ご家族の誰かが所持していた草履を履こうと思ったら余りにも痛くて・・・とご相談頂く事が非常に多いです。
こういった草履の多くは細身の草履と同じ素材か、革・エナメルの花緒がすがっている事がほとんどだと思います。
痛い花緒の代表的な例にあてはまってしまっているわけです。
しかも長期保管により素材が硬化してしまっている場合もあり、花緒調節だけでは問題が解決しない場合が多いです。

足当たりの良い花緒の典型例

ではどんな花緒が足当たりが優しいのか、といいますと

■太めの花緒
■布地の花緒

が足当たりの良い花緒の好例になるかと思います。

花緒が細いと食い込むようなイメージとなり当たっている箇所が痛くなりやすいため、ある程度太さがあった方が分散される分楽になるというのはイメージしやすいかと思います。
素材としては痛い例で登場した革花緒に対して布地の花緒の方が圧倒的に素材そのものの柔らかさがあるため、足当たりも当然良くなっていきます。
これらは実際に触って頂くと手の感触だけでもわかると思います。
Web上では残念ながら触れませんので想像して頂くだけになりますが、革よりも布地の方が柔らかいというのはイメージしやすいのではないでしょうか。


花緒の作り(仕立て方)で足当たりは変わる

太くて・布地の花緒が足当たりが良い、というのは比較的見かけると思いますので、ここではもう少し踏み込んでみようと思います。

花緒の仕立て方・作りによっても花緒の見た目はもちろん・足当たりが変わってくるということです。
よりわかりやすくご紹介するため、同じ生地を使用して3種類の仕立て方で花緒にしてみました。
■丸花緒
■高原花緒
■福林花緒
です。

丸花緒というのは柄生地をそのままぐるりと一周して縫い合わせた作り。
裏地を当てずに一種類の生地から仕立てた花緒です。

高原や福林花緒は表地に裏地を当てて花緒に仕立てていますが、その裏地の量が違います。
高原仕立ては表地の方が多く、半分以上表地におおわれて、履いた状態では丸花緒と遜色ない花緒に見えます。

福林仕立ては裏地が表まで回り込んでいる作りとなり、履いている状態でも裏地の色目が表に現れる作りとなっています。

この3種類。
足当たりだけで考えた時にどれが一番足に優しいと思いますか?
厳密にいきますと、裏地が表にまで回り込んだ福林仕立てが最も足当たりの良い花緒の作りになります。

そもそも花緒の構造としてなぜ裏地を当てているのか・・・を考えて頂ければおのずと当たりの柔らかい花緒はどんなつくりなのか、というところに辿り着くと思います。
高原や福林仕立てのように裏地を当てる構造をしているのは、表地を摩耗から保護する意味もありますが、なにより足当たりを良くするため、のはずです。
表地よりも裏地の方が柔らかく・耐久性がある素材を当てることで花緒としてのパフォーマンスが上がるということが言えると思います。
この裏地が直接足に当たる部分になりますので柔らかければ当然足当たりも良くなります。
逆に言えば表地の素材が硬かったとしても柔らかい裏地で包み込めば足当たりとしては良い花緒になるということです。

3種の仕立て方から、足当たりの良い順に挙げるとすれば
福林>高原>>丸、の順になることは自然と理解出来る事ではないでしょうか
福林のように裏地が表に回り込むような構造をしていると表地が足に当たる事はありません。
高原でも普通に履いて頂く分にはパフォーマンスとして全く問題は無いように思います。

ただ、痛い!という方の中に花緒を巻き込んでしまって履いている方も中にはいらっしゃいます。
足当たりのためにつけた裏地が表に来てしまっていては、当然花緒の持つ本来のパフォーマンスを得られません。
ここは一つ裏地を足に当てるように履いて頂きたいところです。

巻き込み

花緒の仕立て方には他にもいろいろとありますが、基本的にはこの3つのいずれかで仕立てられている場合が多いので、
花緒の仕立て方の紹介としてはこの3つだけにしておきます!


花緒の裏地の種類

次に、実際に足に当たる素材となる裏地の種類についてご紹介していきます。
花緒の仕立て方にも出てきていますが、花緒の足当たりの良し悪しを決めるのはこの裏地と言っても過言ではありません。
各種メーカーさんの努力により様々な素材から仕立てられていますが、ここでは丸屋の場合に絞ってご紹介させて頂きますと。
ハイミロン・罠・本天・スエード・革といった素材になります。

それぞれの特徴をご紹介させて頂きますと・・・

ハイミロン

ハイミロン

ハイミロン・・・ 実は最もポピュラーなのではないかと思う素材です。
現在ではあまり裏地として使われる事は少ないと思いますが、いわゆる軽装雪駄の黒無地や赤無地といった花緒はこのハイミロンで仕立てられている事が圧倒的に多いです。
これからご紹介する本天のように若干起毛していることで足当たりもよく・・・というところですが、素材として若干の硬さがあるように思います。
ただ、その分耐久性は抜群で切れるといったアクシデントや劣化を見たことがないぐらいの強度があります。
また、罠や本天・革といった素材と比べますとリーズナブルである点が普段使いされる方にとっては嬉しい所だと思います。

罠

本天と並ぶ花緒の代表的な素材です。
本天の一歩前、といいますか、本天が起毛しているのはこの罠のループを断つことによります。
罠が別名「毛切らず」と呼ばれるのは毛を切っている本天に対してその名の通り毛を切っていないから、です。
パイル状になっている分足当たりは滑らかになります。
ただ、実感として少し毛羽立ちやすいのかな・・・というところがありまして、丸屋のラインナップとしましては裏地として使用する例は少なくなってきています。

本天

本天

花緒といえば!という代表的な織物です。
先に登場している罠からさらにもう一手間かけて起毛させた生地です。
起毛している分だけ足当たりも良くなり、花緒に使用される素材として最も長く使用されていること、足当たりが最も良いとされている、ということに関しては右に出るものは無いと思います。
本天という響きは馴染みがないかもしれませんが、いわゆるビロードです。
ベルベット・ベロア・別珍といった織物が非常に似た感触になります。
当然無地の花緒としても親しまれていますが、現在ではむしろ裏地の方に当てられる事が多いです。
裏話としましては、実は表地よりも断然この本天の方が高価なんです・・・
実は表地よりも裏地に花緒のコストが掛かっている・・・とはなかなか想像できないかもしれませんが、それだけ足当たりと耐久性において信頼されているのがこの本天という素材だと思います。

スエード

スエード

次にご紹介させて頂きたいのは新素材になります。
人工スエードになるのですが、色落ち・耐摩耗性・柔らかさ、いずれも非常に優れた素材です。
当店で使用しているのは東レ社製の「ウルトラスエード」という人工皮革になります。
車や飛行機の内装にも使用されるような素材で、まさか花緒に!とは思いもよらないところでした。
が、ものすごく手触りもよく、なにより履いて感触も良いという実感です。
新しい素材ですので、これは是非体感してみてください。
その感触の良さから丸屋定番のラインナップの花緒の裏にはだいたいこのスエードを当てています。
明らかに足当たりが向上している、と感じていますので、まさにこのコラムをご覧頂いている方に強くおススメしたい花緒の裏地です。

最後に革。
これも伝統的なスタイルとなっていますが、どちらかというと慣れた方向けであると思います。
素材そのものがこれまで紹介した本天やスエードといった素材よりもどうしても硬くなり、足当たりが強くなる場合が多いです。
それは言い方を変えればフィット感にもなりますので、慣れた方にとってはその方がむしろ履きやすい。という方もいらっしゃるのも事実です。
しかし、基本的には慣れた方向けの素材のように思います。
何事も履いてみないと分からない部分もあるかと思いますが、少々敬遠されがちな素材かもしれません。
基本的には男物の花緒。
印伝やヘビといった革素材には革裏を当てる、といったスタイルが多いです。
あとは女性物のエナメル花緒も分類としては革花緒に入ります。


まとめ

いかがだったでしょうか・・・
花緒の仕立て方と素材・主に裏地についてご紹介させて頂きました。
まとめとしまして皮膚が弱い・・・毎回花緒ズレになる・・・といったお悩みを抱える方が選んだ方が良い花緒は

■ある程度太さがある事
■どちらかといえば福林仕立ての花緒が足当たりが良い
■裏地の素材としては本天やスエードがおススメ(当店の場合)

最初にご紹介させて頂いた細身&革花緒を避け、足に合わせて花緒を調節すれば基本的には問題なくお履き頂けると思ってます。
当店としましても足当たりが悩みとならないようなラインナップになるように心がけているつもりです。
根も葉もないことですが、
花緒選びで重要なのはなんといってもデザインだと思います。
自分の気に入った花緒を選んで頂いて、それを快適に履いて頂けるようにこちらも努力させて頂いているつもりです。

これ大丈夫かな~と思ったら、可能であれば花緒の裏地を触ってみてください。
柔らかい硬いの判断は誰でも出来ると思います。
手触りが良かったら、それは足当たりも良い花緒です。

快適に和装履物を楽しんで頂けますように、少しでもお役に立てていれば幸いです。


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