せっかく草履を買ったのに履いてみたらすぐに痛くなってしまった・・・では辛いところ。
草履に対する不安が溜まってしまうと結局は着物を着る事からも遠ざかってしまうことにもなりかねません。
お客様にとってはもちろん、我々専門店にとっても非常に大事なことだと思っています。
七五三・成人式・卒業式・結婚式・・・などなど。
お祝い事や式典などで和装を意識したことが無い人でも一度は和装をした経験があるのではないでしょうか。
これらは現代における和装に触れる貴重な機会だと思いますが、その唯一の経験が「あれ、痛かった・・・」となってしまう場合も少なからずあるようです。
原因としては「お下がり」や「借り物」をそのまま履いたことがまず考えられます。
昔ながらの草履のスタイルといえばエナメルの台に細身の同色エナメル花緒とお決まりのところ。
このスタイルは履きなれた方にとってはフィット感も強くなりそれが履き心地の良さに繋がっていくのですが、
和装経験の薄い慣れない方にとってはただの「痛い履物」という認識になってしまうことが多いようです。
また、上記のようなお祝い事に履く草履はお母さんもしくはお婆さんが持っている場合が多く「これ履きな!!」と出てきた草履が痛かった・・・
というのは実は一番多く聞かされるエピソードです。
一番多く聞かされるエピソードだけに、このエピソードに「草履=痛い」のヒントが隠されています。
考えられる「痛い要素」は2つ。
1:自分の足に合っていなかった 【花緒調節不足】
2:履き慣れた人向けの花緒だった 【痛い花緒】
和装履物は踵を出して履く履物であるため、台のサイズというよりも花緒の調節により足に合わせるという側面があります。
例えば23cmの方向けに調節したものと、24cmの方向けに調節したものではその履き心地は全く違います。
【全く同じ台と花緒であっても】です。
花緒調節不足の草履はサイズ違いの靴を履いているような状態に近く、痛いというだけでなく緩い場合には不要な足の踏ん張りが必要になり、履きにくい事で余計に疲れることにもなります。
お手持ちの草履でも花緒調節を引き受けている専門店は多いので、明らかに緩い・キツいといった場合は一度専門店に相談されることをお勧めします。
台+花緒からなる和装履物において、台と足をフィットさせる「花緒」が最も履き心地に関係する大事な要素になります。
前述の「花緒調節」ももちろん大事ですが「花緒のつくり」や「素材」についても履き心地を語る上では避けて通れない要素です。
数ある花緒の中でも「痛い例」としてご紹介するとしたら真っ先に挙がるのが実は先のエピソードでご紹介したエナメルの細花緒なのです。
一番わかりやすいのは実物に触れて頂くことなのですが、なかなかWEB上で「触ってみて!」とは難しいところ。
しかし、エナメル塗装された牛革と正絹生地とではどちらが柔らかいか?は素材に触れずともイメージ出来るはず。
この「花緒の素材」という要素は直接自分の足に当たる部分になるため当然柔らかい素材の方が足当たりが良くなります。
表現が正しいかあやしいですが、革靴とスニーカーぐらいには履き心地が違うと思います。
・・・ではどんな花緒を選べばいいのか・・・
草履といえばエナメル台にエナメルの細花緒!というのは実は現代においては少数派になりつつあります。
変わりに正絹など織物地の花緒でフォーマルまでカバーできるような足当たりの良い花緒を組み合わせる事が圧倒的に多いです。
こういった「足当たりの良い花緒を選ぶ」というのは草履購入時の1つのポイントになると思います。
それでも不安・・・という方はまずは手持ちの草履の花緒を柔らかい花緒にすげ替えてみると全く違う履き心地を実感できるのでおススメです。
花緒が痛いという方への解決策まとめ
■草履の花緒は調節可能!専門店での調節をお勧めします
適切な花緒調節は草履の履き心地を大きく向上させます。
その場で花緒調節してくれる専門店に相談してみましょう!
■なるべく柔らかい感触の花緒を選ぶ!
定番のエナメル花緒などは上級者向けになります。
まずは当たりの優しい布花緒から履いてみる事をお勧めします。
草履の実質的な履き心地は花緒とその調節具合によって大きく感じ方が変わるのはこれまで述べてきた通りですが、
もう一つ履物の特性として気になるのはクッション性ではないでしょうか。
「草履」といえばコルク芯に革などを巻きつけた履物です。
コルク芯のみだと反発性が高いため、足がのる「天」にはEVAクッションが挟み込まれるのが一般的です。
基本的には上記画像のような構造になっており、我々専門店としては「クッション性が足りない!」「足が疲れる!」といった悩みを受ける事は実はあまりありません・・・
しかし、立ち仕事や一日中着物で過ごす!という方からの要望に応えるように生まれた「低反発草履」はこのクッションを厚くしたものです。
衝撃吸収性が高く足への負荷が掛かりにくいということで、日常使いというよりも仕事履きとしての着用シーンにおススメです。
厚みのある分、草履としても天がふっくらと仕上がる印象です。
歩行面ではある程度の反発があった方が良いとされる事もありますので、あくまでも長時間お履きになるシーンを想定した履物だと思います。
元祖クッション草履・・・と言いますか、その昔のクッション材は綿でした。
綿を重ねて包み込む技術が必要になるため、現在では非常に高価な草履というポジションにあります。
程よい足当たりにするため、重ねる綿の量はご覧の通り・・・
これしか履かない!という方も実際にいらっしゃいますので、その履き心地は優しいのだと思います。
草履のクッション材まとめ
■伝統的なスタイルの草履には適切なクッション材が入っている
適度な反発により歩行を助け、衝撃吸収により疲労を軽減する適切なクッション材が職人により厳選されています。
■長時間の使用(立ち仕事など)には低反発もおススメ
使用場面が定まっており、長時間の立ち仕事などの場合は強めのクッション性=低反発草履がおススメ。
いわゆる【着物警察】というのが嫌でも耳に入ってくる現代。
非日常的な扱いとなる事が多い和装だからこそ、TPOといった細かい事まで気になってしまうのは人情だと思います。
基本的には個々のファッションですので、どうこういうのもどうかと思いますが・・・
ただ、このコラムにまで辿り着いて頂いたということは、少なからず【TPO】と【草履】の関係を教養として知っておこう、という方が多いのではないかと思います。
草履のTPОについて知る、ということはどんなスタイルの草履があるのか?ということを理解して頂ければ良いように思います。
まずはザっとご覧ください・・・
こうして草履の横顔を並べてご覧頂いただけでも、もしかしたらご理解頂けるのではないでしょうか。
意識的に低い草履~高い草履という具合に並べてみました。
結論からいきますと。
草履の素材は色々とありますが、草履の作りとしては低いほどにカジュアルであり高いほどフォーマルになります。
カジュアル=履きやすさ、フォーマル=着物を支えるボリューム感が重要視される傾向にあります。
これは普段使用の場面には見た目よりも実用性、ハレの日には見た目が何より重要!という自然な流れになるでしょう・・・
いずれにしても草履は履く方を/着物をより美しくみせるためのサポートアイテムという位置付けになります。
着飾った姿をより美しく見せるために考えられ・作られた草履が今に伝わる背の高いフォーマル草履のスタイルになっていると感じます。
ここまでは「下駄屋の教科書」にでも載っていそうな内容です※そんなものはありませんが・・・
少なくとも自分はそう教えられてきたように思います。
故の懺悔をあえてここでしたいと思います。
下駄屋をやっている以上、お客様からの相談ももちろん受ける立場にあります。
カジュアル=背の低い草履、フォーマル=背の高い草履、と知識を埋め込んだ頭のあるころ
「背が高いので背の高い草履は履きたくない・・・」
というお客様がいらっしゃいました。
その時の自分は・・・覚えた知識の通りに、とばかりにフォーマルは背の高い草履の方が良いですよ、というご案内になってしまったと記憶しています。
しかし。
本来の草履の役割である
「履く人/着物をより美しくみせる」ということから考えれば必ずしも分厚い草履である必要性は感じません。
そもそも背の高い方なら草履の高さサポートとは関係なく、着物の柄も余すことなく身にまとう事が出来るはずです。
こういった事を踏まえると「臨機応変に」というのが正解なのではないかと思うようになりました。
ここまで、ほぼ正装時の草履について触れてきましたが、これを押さえて頂く事で普段履き~洒落履きはどのあたりまでなのか、というイメージも出てきたように思います。
というよりも基本的には垣根もほぼなく、フリーに近いのではないかと感じています。
【和装履物のTPO(女性編)】より抜粋
草履のTPOまとめ
■背が低い方がカジュアル、高い方がフォーマル
草履の作りを見るとおおよその用途がわかります。大きな目安となるのが草履の背の高さです。
■普段~お洒落履きは自由
フォーマルさえ抑えておけば、あとは比較的気兼ねなくお楽しみ頂けると思います。
ここまで草履の構造から用途分けの仕方をご紹介しました。
もちろん和装履物は台のみでは履けません。
もう一つの大事な要素が花緒になります。
先の足当たり・履き心地編でもご紹介していますが、現在では台と同じくエナメル花緒というスタイルは減少傾向にあります。
より足当たりが柔らかく履き心地の良い布地の花緒が主流となっているように思います。
エナメル台にエナメル花緒のイメージは強く、それでなければダメ!というイメージをお持ちの方は意外と多いです。
しかし、布地(織物)でもフォーマルまで対応する事はもちろん可能です。
代表的なのは錦織・金襴・緞子などの織物で金糸・銀糸の織り込まれた織物を使用した華やかな花緒を草履台と組み合わせる事で、
より着物を引き立たせることができます。
丸屋では名物裂が中心となり思い思いの台と合わせながら自分だけの一足をお見立て頂けます。
こういった花緒は実際に帯から花緒に仕立てているものも多く、
お手持ちの帯の印象に合わせていくのも1つの見立て方だと思います。
人気の花緒として組紐の花緒があります。
様々な色目が組み合わさったもの、シンプルに無地のものそれぞれですが、煌びやかな雰囲気がよく草履に合う花緒です。
フォーマル専門にお考えであれば少し弱いかもしれませんが、ある程度幅広く万能に履ける花緒として人気があります。
また、箔押しなどで華やかさをプラスしたシルク地の花緒も定番で使い勝手の良い花緒です。
いわゆるカジュアルな花緒というのは下駄にすげるようなイメージの花緒というとわかりやすいかと思います。
基本的にはエナメル草履などにはデザイン的に合わせ辛いように思います。
当店ラインナップですと、艶消し草履や帆布草履といったところがカジュアル草履として合わせやすいかと思います。
花緒のTPOまとめ
■TPOに応じた花緒も存在する
■フォーマルには錦織・金襴・緞子などの織物を使用した花緒が◎
■いずれの場合も足当たりを重視した布地の花緒がお勧め
ここまでかなりの文章量をお読み頂いて知識を身に付けて頂きました。
それで自分のスタイルが見えてきた!!という方もいらっしゃるかと思いますが、
結局のところどんな草履がおススメなの!?という方へ向けて実際の商品を含めながらご紹介して、このコラムの締めとしたいと思います。
いわずもがな、ですが。理想的な事を言えばこの着物に対してこの草履!!
という一着・一足スタイルが出来れば苦労はしません。
しかし、そんな予算がある方は圧倒的に少数派だと思います。
これと・・・これと・・・あれにも合わせられる草履が良いんだけど!というのがお客様にとっての理想形だとよーーく聞かされます。
これは意外と手慣れた方でもそうですし、これから着物が増えていく・変わっていく可能性のある着物初心者にとっても同じことです。
誰もが、出来る限り万能な・お洒落な・しかも快適な草履を求めていると思います。
そんな要望に対する丸屋の1つの答えがこちらです。
先のTPO編において、草履は【高さ】が重要である、と書いていますが。
まさに、フォーマルすぎず・カジュアルすぎない。
どちらにも使いまわしできますよ・・・というスタイルの草履がこの3分3枚、通称【万能草履】です。
7寸4分 (21~22.5cm) | 7寸7分 (22.5~24.5cm) | 8寸 (24.5~25.5cm) | 8寸3分 (25.0~26.5cm) |
15,500円 | 15,500円 | 16,500円 | 17,500円 |
程よい高さで使いまわしよく。
厚みの変化の少ないフラットな作りなので履きなれない方にも違和感なく。
オール本革の草履だからこその耐久性が魅力の草履です。
薄色~濃色まで11色を揃え、低反発や幅広といった細かなオプションにも対応しております。
複数の着物に合わせる想定の場合は薄色が良い、とはよく言われます。
実際に白・クリーム・薄グレー・ピンク辺りは通年人気の高い色目となります。
花緒も薄色で合わせるスタイルが何といっても一番多い組み合わせです。
組み合わせ例
万能草履 白×氷割れ柄花緒
当店価格¥18,100~
シンプルな白台に花緒は少し変化をつけてみました。
白地に金という配色で氷割れ模様を表した花緒です。
赤ツボもアクセントによく合う組み合わせだと思います。
万能草履 薄グレー×組紐福林花緒
当店価格¥19,700
コラム内でもご紹介した組紐花緒の組み合わせ例です。
様々な配色がありますが、薄色同士組み合わせた例が人気があります。
本天裏で福林仕立てというのも足当たりの面でとても優秀です。
万能草履 ピンク×罠ビロード花緒
当店価格¥20,700~
無地の本天や罠というのは花緒の裏などに使われる王道素材ですが、
柄物の罠ビロードは現在では非常に珍しいと思います。
優しい雰囲気と柔らかい手触りでその履き心地も非常に楽な花緒です。
万能草履 アイボリー×ジャガード花緒
当店価格¥19,700
金襴に似たジャガード織も花緒として草履によく合います。
あまりガラガラせず、かしこまりすぎず・砕けすぎない。
上品な草履に似合う花緒だと思います。
そもそもフォーマルな場面に着物を着る機会はない、という方の場合はカジュアルに徹するのもおススメのスタイルです。
当店の場合、足当たりの良い布花緒を組み合わせやすくするため、艶消し草履をご提案しています。
気楽に普段にということを想定して合皮を採用。
台+花緒を選んで、足に合わせて調節して1万円以内で収まり快適に履けるクラスになります。
色数も豊富で花緒の選択肢も広くご案内しきれないほどですので、
自分好みの草履に仕上げて頂けるのではないかと思います。
組み合わせ例
艶消し草履 赤×遠州綿紬花緒
当店価格¥8,600~
先の万能草履と比較して頂くと一気に雰囲気が変わったと思います。
カジュアルならではの気楽さ・可愛らしさを感じる組み合わせです。
艶消しシリーズには木綿シリーズの縞・無地はよく合います。
艶消し草履 桃×花柄花緒
当店価格¥8,600
今回紹介している組み合わせ例の中では使いまわしの良さそうな組み合わせ。
薄色同士の配色で、可愛らしい草履です。
艶消し草履 淡緑×ウサギ柄花緒
当店価格¥8,600~
個性的な花緒を合わせる事ができるのもカジュアルならでは。
花緒の選択肢は豊富ですので「こんな花緒あるんだ!?」という出会いも生まれます。
お洒落は足元から~とばかりに花緒で楽しんでください。
艶消し草履 青×遠州綿紬花緒
当店価格¥8,600
ここまでの流れとは反対側のような草履です。
女性らしさも伺える、クールにまとめた草履。
足元にアクセントを持ってくるのもお洒落だと思います。
いかがだったでしょうか。
草履の相談事として多いお悩み事について解決策含めてご紹介させて頂きました。
店頭にて個別にご相談されるのが一番かとは思いますが、一つの目安となれれば幸いです。