夏色磨きとは―丸屋履物店

夏色磨き

下駄の仕上げ方は大きく分けて磨き、塗り、焼きの3種。
磨きというのは別名:白木とも呼ばれ、素材をそのままに生かした仕上げ方。
当店で扱っている夏色も白木磨きと工程は変わらず、磨く際の砥の粉に墨を加えることで色味の違いを表しています。墨が加わることにより全体的に黒っぽく煤けた雰囲気に仕上がることが夏色の特徴です。
ここではその代表的な仕上げである磨き、中でも当店独自の砥の粉を使用した「夏色磨き」の工程を中心にご紹介します。

木地に紙やすりを当て、整える

木地を整える

何事でもそうかもしれませんが、磨いて艶を出すには素材に平面があることが重要です。
基本的には職人さんが仕上げてくれていますが、それでも細かい気になる部分に紙やすりを当て、研磨することで仕上がりに違いが出てきます。
砥の粉を塗る前の一手間として、木を見ること。
そして研磨することが下準備として重要になります。
研磨をしたら、軽く水洗いをして粉を落とし、しっかりと乾かしておきます。

砥の粉を塗る

十分乾いた木地に今度は砥の粉を塗ります。
砥の粉は赤砥の粉・黄砥の粉など色々ありますが、夏色の場合はそこに墨を加えてしまうため、砥の粉そのものの色味は出ません。※当店にて使用しているのは赤砥の粉です。
予め砥の粉・墨・水で練り合わせておき、塗る直前に水を足し、塗りやすく伸ばして使用します。
塗りムラなどを気にするほど繊細なものではないので、この作業は少し気楽に進める事ができます。
塗りが終わればちょっと一息。乾くまでしばしの休憩です。

木地に砥の粉を塗る

砥の粉が乾いた図

砥の粉を落とす

塗りなどの下地に使われる場合は落とす事はないのかもしれませんが、下駄の場合はほとんど色付けの役目に近いような気がします。
ここから先、磨いていく上で今度は砥の粉の粉が邪魔者になってきますので、予め綺麗に砥の粉を落とす必要があります。
当店の場合はここから浮造りを使用して砥の粉を落としていきます。
まだ本磨きではないので軽くなぜるように粉を落とし、仕上げとして綺麗な布巾で砥の粉を取り除きます。
柾の下駄等で木目を出したい場合はここでクジリ等を使用して目引き(押し目)をし、木目を際立たせておく手法もあります。※天一などの柾張りの下駄では出来ません。

浮造り磨き

下駄磨きにおいて重要な部分です。
カルカヤの根を束ねた【浮造り】という道具で磨いていきます。 この時に【いぼた蝋】を浮造りになじませて磨いていくとこの後に玉を掛ける時に抜群の艶が出ます。 いぼた蝋を付ける方法は下駄に直接など、色々あると思いますが、当店では浮造りに付けることで全体にムラなく行きわたるように配慮しています。
浮造りで磨くことで柔らかい部分(=木目・道管等)が凹み、木目がクッキリと現れます。この瞬間が磨いていて楽しい時間でもありますが、体力的には辛い所。
力を入れても桐の方が参ってしまう事もありますので、力一杯やれば良いというものではないですが、それなりに力が必要な作業です。
磨き終えたらまた布巾で粉を取るように軽く磨き、次の工程です。

浮造りで磨きあげる

玉磨き

玉磨き

浮造りの磨きが終わったら、今度は浮造りから【玉】に道具を持ち替えてさらに磨いていきます。
玉というのは、簡単に言えば桐材磨き専用の形に作られた瀬戸物、といったところでしょうか。
浮造り磨きから玉磨きへ。ここでいぼた蝋がムラなく行きわたっているか、がハッキリと現れます。 また、砥の粉が残っているとダマになってみたり・・・これまでの自分の仕事の評価が現れる瞬間でもあります。 ここで後悔しても遅いのですが、ここまで来ないと意外とわからないものなんです。
玉で磨かれた下駄は本当にピカピカになります。履けばいずれ落ちてしまう艶ではありますが、ピカピカの下駄でお客様をお迎えするのが下駄屋の役目だと思っています。