遊郭お駄賃物語
かつて、東海道一の宿場として栄えた品川。
様々な出来事をくり返し、時代の流れのなかに忘れ去られようとしているものもある。
学校から帰ってきたらすぐに店の手伝いで、お得意様に御用聞きに走る。注文があれば、店にもどり注文された品物を持っていく。届けると向こうの人が「ご苦労さん」と、お駄賃をくれ、それを片手にお菓子を買って食べる。そんなお得意様のなかに、当然のことながら女郎屋があった。身寄りのない女たちにとって、子供は自分の子供のように写ったのだろう。大変に子供をかわいがり、小遣いもずいぶんとくれたそうで、曰く「あの時代に生まれてれば、男の子は小遣いには苦労しないよ」だそうである。
叶わない夢を御用聞きの子供に見て。品川宿の繁栄を支えても誰に供養もされず、無縁様になる。
忘れてはいけないものもある。
蟹を食べるのに、茹でて食べるのがだいたい一般的だと思う。ところが、今のように海が遠くなる前の品川では、蟹を醤油と砂糖で甘辛く煮て食べるのが一般的だった。今のように、遠くで捕れた魚が食べられる時代ではなかった。蟹といっても、当然、ズワイガニなどでもなく、おもに渡り蟹だった。目の前の東京湾で捕れたものを、猟師(昔は、漁師ではなく猟師と書いた)が帰ってくると、タダ同然の値段で売ってくれた。もちろん捕れるのは蟹だけではなく、四季に応じた様々なものが捕れ、東京湾は今よりもずっと豊かな海だった。
Copyright (C) Maruya. All rights reserved.